緑内障治療の新しい選択肢「SLT」——レーザーで眼圧を下げる治療について

はじめに
緑内障の治療というと「毎日の点眼」というイメージが強いかもしれません。点眼薬は現在でも治療の主役ですが、点眼の手間や副作用にお悩みの方、「点眼を増やす前に、もう一度眼圧を下げる方法はないか」とお考えの方も少なくありません。
今回は、点眼薬と並ぶ治療の選択肢として近年注目されている**SLT(選択的レーザー線維柱帯形成術)**について、治療の仕組みから効果、費用、注意点までをまとめました。
1. SLTとは?——「目の排水口のフィルター」を目詰まりごと整えるレーザー治療
緑内障では、目の中でつくられた水(房水(ぼうすい))を外へ流す出口の近くにある「線維柱帯(せんいちゅうたい)」というフィルターに、細胞のカスなどが溜まって目詰まりを起こし、眼圧が上昇します。
SLTは、この線維柱帯へ特殊なレーザーを照射し、房水の流れを改善して眼圧を下げる治療です。レーザーは、線維柱帯に沈着した色素(色素細胞)を選択的に働きかけます。フィルター自身(組織)には傷を残さない点が最大の特徴です。
かつて行われていた従来のレーザー治療(ALT)は、レーザーを当てた組織そのものが壊れて瘢痕(はんこん)になるため、時間とともに効果が失われ、再治療も難しいという課題がありました。SLTでは組織を温存できるため、効果が弱まってきたら再照射(繰り返し治療)が可能です。
2. 効果はどのくらい?
- 眼圧を**約20〜30%**下げる効果が期待できます。これは点眼薬1剤に相当する効果とされています。
- 効く方の目安は7〜8割。残りの1〜3割の方には効果が見られないこともあります(治療前に予測することは困難です)。
- 効果はすぐに現れるわけではなく、数週間かけて徐々に出てきます。
- 効果の持続は平均2〜3年程度とされます。もっと長く効く方もいます。
海外の大規模臨床試験(LiGHT試験)では、緑内障・高眼圧症の初期治療として「点眼薬から始める群」と「SLTを最初に行う群」を比較した結果、SLTを最初に行っても点眼薬から始めるのと同等の眼圧管理が得られることが示されました。初期SLT群では約74%の方が3年間点眼薬なしで管理され、6年後でも72%が点眼なしで経過していました。
さらに2026年に発表された長期解析では、視野(見える範囲)の悪化速度が点眼群に比べてSLT群のほうが約29%緩やかだったという報告もあります。
日本人の方でも有効性が報告されています。日本人の正常眼圧緑内障230眼の検討では、治療前の平均眼圧16.5mmHgが治療1年後に13.4mmHg、2年後も13.5mmHgと維持されました。正常眼圧緑内障はもともと眼圧が低いため、下がった幅は小さく見えますが、視野を守るうえで意味のある眼圧下降です。
3. 点眼薬・手術とどう違う?——効果と手間の比較
SLTは点眼薬や手術と比べて、どのような位置づけにあるでしょうか。眼圧下降効果と「手間(治療・通院の負担)」の2つの視点から整理しました。
| 視点 | 点眼薬 | SLT(レーザー) | 切開手術(濾過手術など) |
| 眼圧下降効果の目安 | 1剤あたり約20〜30%。複数剤の併用で効果を強める | 約20〜30%(点眼1剤に相当)。7〜8割の方に有効 | 最も強力な眼圧下降。術前より約30〜50%の低下が期待できる |
| 効果の出方と持続 | 点眼のたびに効く。毎日続ける限り効果は続く | 数週間かけて徐々に出る。平均2〜3年で弱まれば再照射で対応 | 術後しばらくすると安定。効果は数年〜長期にわたる(経過とともに緩むこともある) |
| 手間(治療・通院) | 毎日1〜数回の点眼を継続。忘れやすさ・継続の難しさが課題 | 外来・日帰り。照射は5〜10分、当日は眼圧確認のため半日程度。効果が弱まれば再照射可 | 入院が必要な施設が多い(約2週間)。術後しばらくはほぼ毎日の通院と点眼で経過管理。手術自体は30分程度 |
| 主なリスク | 充血・刺激感・まつげの伸長・かぶれなど。点眼忘れは進行のリスクに | 一時的な眼圧上昇(約5%前後)、稀に前房出血。重い合併症は稀 | 低眼圧・濾過胞のトラブル・感染など、重めの合併症の可能性。術後管理が成否を左右 |
| 向いている方 | 点眼で十分に眼圧が下がる方(初期治療の基本) | 点眼の本数・負担を減らしたい方。点眼薬1剤分の効果を補いたい方 | 点眼やSLTを併用しても目標眼圧に届かない方、進行が速い方 |
※手術にはこのほか、白内障手術と同時に行うMIGS(低侵襲緑内障手術)もあります。眼圧下降は点眼1剤分程度と穏やかですが、侵襲が小さく回復が早い治療です。どの治療をどの順番で選ぶかは、病型・病期・目標眼圧に加えて、ご自身の生活スタイルを総合して決めることになります。
4. どんな方に向いている?
- 点眼薬の副作用(充血、刺激感、まつげの伸長、皮膚のかゆみ・かぶれなど)がつらい方
- 毎日の点眼が忘れがちな方、点眼がご自身では難しい方
- 点眼薬を何種類も使っていて、これ以上増やしたくない方
- 点眼を続けても眼圧が十分に下がらない方
- 治療を始めるにあたり、点眼に頼らずに済む選択肢を検討したい方
適応となる病気:原発開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障、落屑(らくせつ)緑内障、色素性緑内障、高眼圧症などです。ただし、隅角(ぐうかく)の状態や病型によって適応が変わるため、まずは診察・検査で判断します。閉塞隅角緑内障は原則として適応ではありません。
5. 治療の流れ(外来・日帰り)
- 診察・検査:眼圧・視野・OCTに加え、隅角鏡検査で隅角の状態を確認し、SLTの適応を判断します。
- 治療当日:点眼麻酔の後、スリット顕微鏡にコンタクトレンズ型の特殊なレンズを装着し、隅角に向けてレーザーを照射します。所要時間は5〜10分程度で、痛みはほとんどありません。
- 照射後:一時的な眼圧上昇がないかを確認するため、当日に眼圧を測定して帰宅していただきます。入院は不要です。
- 効果の判定:効果は数週間かけて出てきます。1〜2か月で効果を評価し、点眼の継続・減量や再照射の要否を検討します。
多くの場合は片眼ずつ施行し、必要に応じて後日反対眼を治療します。治療後も、緑内障の定期検査(眼圧・視野・OCT)は継続してお受けいただくのが基本です。
6. 費用について
SLTは健康保険が適用される治療です(診療報酬上は「隅角光凝固術」として算定します)。目安として、片眼あたり
- 3割負担の方:約3万円
- 1割負担の方:約1万円
となります。初診料・検査料・お薬代は別途です。また、加入されている生命保険の手術給付(隅角光凝固術)の対象になる場合がありますので、契約内容をご確認ください。
7. 副作用・リスク
- 治療後に一時的な眼圧上昇が起こることがあります(約5%前後)。当日に眼圧を測定し、必要に応じてお薬で対応します。
- 数日間の充血・かすみ・異物感が出ることがありますが、多くは1週間以内に軽快します。
- 稀に前房出血(目の中の小さな出血)が起こることがあります。
- 切開を伴う手術のような重い合併症はほとんどなく、安全性の高い治療とされています。
8. 留意点(あらかじめご承知おきください)
- 効果には個人差があり、1〜3割の方には効果が見られません。
- 効果は永続するものではなく、数年で弱まることがあります(再照射や点眼の併用で対応します)。
- SLTで緑内障が「治る」わけではありません。緑内障の進行を抑える治療のひとつであり、治療後も定期的な通院・検査の継続がとても大切です。
- 濾過手術(ろかしゅじゅつ)などの手術治療ほど強力な眼圧下降は期待できません。病期や目標眼圧によっては手術が先に検討される場合もあります。
9. まとめ——点眼と並ぶ、もうひとつの選択肢
SLTは「レーザーで眼圧を下げる」という、緑内障治療における新しい選択肢です。点眼薬と同等の効果が外来・日帰りで得られ、合併症が少なく、繰り返し治療できることから、初期治療としても、点眼の負担を減らす選択肢としても、その有用性が確かめられつつあります。
「点眼をやめたい・減らしたい」「点眼の副作用がつらい」「点眼以外の選択肢を知りたい」——当院では、眼圧・視野・隅角の状態を踏まえて、SLTの適応についてご相談に応じています。緑内障でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
(効果・適応には個人差があります。詳しくは診察時にご説明いたします。)
参考
- Gazzard G, et al. Laser in Glaucoma and Ocular Hypertension (LiGHT) Trial — JAMA Ophthalmol(3年結果:2019年、6年結果:2023年)
- Montesano G, et al. Ophthalmology(2026年、視野悪化速度の長期解析)
- 日本緑内障学会「緑内障診療ガイドライン」第5版
