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多焦点眼内レンズ「パンオプティクス プロ」の実力

  

近年、白内障手術は「濁った水晶体を取り換える」だけでなく、「どのように見たいか」を選ぶ時代になりました。遠方も中間も近方も眼鏡に頼らず見たい――そんなご希望に応えるのが多焦点眼内レンズです。今回は2025年12月に日本で薬事承認、2026年3月から販売開始された、アルコン社の最新三焦点レンズ 「Clareon® PanOptix® Pro(クラレオン パンオプティクス プロ、以下パンオプティクス プロ)」 について、従来の「パンオプティクス」との違いを踏まえながら、その実力を分かりやすくお伝えします(あくまで一般的な情報であり、個人差があります)。

1.そもそも多焦点眼内レンズとは?

 

図1:白内障手術では水晶体を取り除き、人工の眼内レンズ(IOL)を挿入します。

眼内レンズ(IOL:Intraocular Lens)は、白内障手術で濁った水晶体と入れ替える人工のレンズです。保険診療で広く用いられる単焦点レンズは、遠方または近方のどちらか一方向にピントを合わせるため、近くと遠くなどを自由に見るためには眼鏡が必要になります。

一方、多焦点レンズはレンズ表面に特殊な回折構造を持つことで、遠方・中間・近方の複数距離にピントを合わせることができます。手術後に眼鏡をかける頻度を減らし、生活の質(QOL)を高めることを目指して開発されました。代表的なものには2焦点レンズ、3焦点(trifocal)レンズ、焦点深度拡張型(EDOF)レンズなどがあります

(Alcon Professional:https://www.myalcon.com/professional/cataract-surgery/iols/clareon-panoptix-pro/ )

ただし、共通するデメリットとして、夜間のハロー(光のにじみ)・グレア(まぶしさ)が出やすいことが知られています。多焦点構造は「光を分けて使う」ため、ピントが合った像とピントのずれた像が網膜に同時に入り、これが脳に「ハロー」として認識されるためです(白内障手術と多焦点レンズ:https://www.hakunaisholab.or.jp/study/glare/ )。

2.パンオプティクス プロは「三焦点」

 

図2:単焦点レンズと多焦点レンズの焦点の概念図。パンオプティクス プロは遠方・中間・近方の3箇所にピントを合わせます。

パンオプティクス プロは、回折型の三焦点眼内レンズで、以下の3つの距離にピントを合わせるように設計されています。

 

焦点

目的とする見え方

遠方

運転、テレビ観賞、風景

中間

パソコン作業、料理、車のメーターパネル

近方

読書、スマートフォンの操作

 

加入度数は 中間 +2.17D/近方 +3.25D が組み込まれており、これは一般的なデスクワーク距離(60 cm前後)と手元の読み書き距離(約33 cm)に合わせて設計されています。(Alcon Investor Relations:https://investor.alcon.com/news-and-events/press-releases/news-details/2025/Alcon-Expands-Leadership-in-IOL-Innovation-with-Clareon-PanOptix-Pro-Delivering-Best-in-Class-Light-Utilization-and-Less-Light-Scatter/default.aspx )。なお、レンズ度数の範囲は +6.0〜+34.0 D(+6.0〜+30.0 Dは0.5 D刻み、+31.0〜+34.0 Dは1.0 D刻み)です(iolreference.com:https://iolreference.com/lens/alcon/clareon-panoptix-pro )。

3.従来型「パンオプティクス」との違い――「ENLIGHTEN® NXT」の進化

パンオプティクス プロの一番の改良点は、光学設計の見直しです。レンズ素材は同じアルコン社の Clareon®(クレアロン)と呼ばれる疎水性アクリル樹脂が使われており、生涯にわたり透明性を保つ、グリスニング(水滴状の曇り)が起きにくい、UV・ブルーライトをカットするといった特徴を継承しています(MyAlcon Professional:https://www.myalcon.com/professional/cataract-surgery/iols/clareon-panoptix-pro/ )。

そこに新たに搭載されたのが、ENLIGHTEN® NXT(エンライテン・エヌエックスティー)光学技術です。これは、回折構造のリングを再設計し、光を有効利用できるようにしたアルコン独自の技術です。パンオプティクス プロでは次の数値的向上が公表されています。

性能指標

従来型 PanOptix

PanOptix Pro

光利用率(有効に使う光)

88 %

94 %(※三焦点IOLで最高水準)

散乱光(ロスする光)

12 %

6 %(=半減)

遠方~中間でのコントラスト

従来比 約 16 % 向上

出典:Alcon Investor Relations、MyAlcon Professional、Dulles Eye Doctors解説(glance.eyesoneyecare.com / dceyedr.com)

つまり、従来は「光の一部がにじみとして失われていた」部分を、設計を見直してとり戻し、有効なピントに振り向けたということです。これにより、コントラスト(文字の濃淡、輪郭のシャープさ)が改善され、夜間の見え方の質も上がるとされます(Quick Guide解説:https://www.quickguide.org/post/panoptix-pro-reduce-light-scatter )。

乱視をお持ちの方向けに、トーリック(乱視矯正)モデルも用意されており、乱視用の度数(円柱度数)が組み合わされています(FDA PMA P190018/S029:https://www.accessdata.fda.gov/scripts/cdrh/cfdocs/cfpma/pma.cfm?ID=P190018S029 )。

4.パンオプティクス プロが向いている方・慎重検討が必要な方

すべての患者さんに最適というわけではありません。一般的に、以下のような方は良い候補とされています(MyAlcon Professional Insights:https://www.myalcon.com/professional/insights/clareon-panoptix-pro-expert-perspectives/ )。

向いている可能性が高い方

  • 眼鏡の装用頻度を減らしたい方(読書・運転・パソコンなど)
  • 網膜・角膜が健康な方
  • 軽度の乱視であれば、トーリックモデルで対応可能な方
  • 術後しばらく出る可能性のある軽いハロー・グレアを受け入れられる方
  • 最新の技術を求める方

慎重に検討される方

  • 進行した黄斑変性、増殖糖尿病網膜症など網膜疾患のある方
  • 強い不正乱視、角膜混濁、円錐角膜のある方
  • ドライアイが未治療の方
  • 手術費用(プレミアム IOL は自費診療)のご予算が合わない方

(※いずれも一般的な目安であり、最終的には術前検査と担当医の判断が必要です。)

5.ハロー・グレアとの付き合い方

 

図3:夜の街灯やヘッドライトの周りに光の輪が見えるのが「ハロー」、光がにじんで明るく広がる現象が「グレア」です。

多焦点レンズでは、夜間に街灯や対向車のヘッドライトの周りに光の輪(ハロー)が見える、まぶしく感じる(グレア)といった症状がゼロにはできません。ただ、「すべての患者さんに強く出る」わけではなく、その程度や慣れるまでの期間は個人差が大きいことが報告されています(DCEyeDr解説:https://dceyedr.com/article/panoptix-pro-trifocal-iol-next-generation-vision-at-all-distances/ )。パンオプティクス プロでは ENLIGHTEN NXT により散乱光が半減しているぶん、従来型よりもこうした視覚不快感が出にくい設計になっているとアルコンは説明しています(Quick Guide解説:https://www.quickguide.org/post/panoptix-pro-reduce-light-scatter )。

実際、三焦点 IOL における視覚不快感に関する研究では、両眼にパンオプティクスを植入了した患者さんでハロー約44 %、グレア約34 %、スターバースト約30 % の自覚があったという報告もあります(不快の程度には大きな個人差があります)(Patient-Reported Outcomes:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11754775/ )。術後の脳順応(neuroadaptation)で数週間〜数か月で慣れる方も多いとされます。

6.費用について

多焦点眼内レンズ(プレミアムレンズ)は保険適用外(自費診療)となることが一般的で、白内障手術自体の保険診療部分に加えて、レンズの差額をご負担いただきます。料金設定はクリニックごとに異なりますので、当院 石田眼科大崎クリニックへは直接お問い合わせください。

7.まとめ

パンオプティクス プロは、三焦点 IOL の利点(遠方・中間・近方を一つのレンズでカバー)を継承しつつ、光学設計 ENLIGHTEN NXT によって「光利用率 94 %」「散乱光 半減」「コントラスト 約16 % 向上」という具体的な性能向上を実現した次世代の多焦点レンズです。日本では2025年12月に承認、2026年3月から販売が始まりました。

ただし、良い見え方は患者様の目の状態(角膜・網膜・ドライアイ・乱視など)に大きく左右されます。「多焦点レンズを入れたいけれど、自分に合うのか」「ハロー・グレアが心配」――そんな方は、まず一度、石田眼科大崎クリニックでの詳しい検査とご相談をおすすめします。適応や見え方には個人差がありますので、当院では患者様ごとのライフスタイルに合わせて、単焦点・多焦点・焦点深度拡張型など複数の選択肢をご提案いたします。

 

参考文献・出典

・日本アルコン株式会社プレスリリース(2025年12月5日)「Clareon PanOptix Pro 薬事承認取得」 https://www.alcon.com/jp-JP/press-releases/PanOptixPro-regulatory-approval/

・日本アルコン株式会社プレスリリース(2026年3月24日)「Clareon PanOptix Pro 全国発売開始」 https://www.alcon.com/jp-JP/press-releases/Alcon-Japan-Launches-Clareon-PanOptix-Pro/

・Alcon Investor Relations「Alcon Expands Leadership in IOL Innovation with Clareon PanOptix Pro」 https://investor.alcon.com/news-and-events/press-releases/news-details/2025/Alcon-Expands-Leadership-in-IOL-Innovation-with-Clareon-PanOptix-Pro-Delivering-Best-in-Class-Light-Utilization-and-Less-Light-Scatter/default.aspx

・MyAlcon Professional「Clareon® PanOptix® Pro Trifocal IOL」 https://www.myalcon.com/professional/cataract-surgery/iols/clareon-panoptix-pro/

・MyAlcon「Clareon® PanOptix® Pro 患者さん向けページ」 https://www.myalcon.com/cataracts/clareon-iols/panoptix-pro/

・Alcon「Clareon PanOptix Pro Expert Perspectives」 https://www.myalcon.com/professional/insights/clareon-panoptix-pro-expert-perspectives/

・iolreference.com「Clareon® PanOptix® Pro (PXYWT0)」 https://iolreference.com/lens/alcon/clareon-panoptix-pro

・U.S. FDA「Premarket Approval (PMA) Database – P190018/S029」 https://www.accessdata.fda.gov/scripts/cdrh/cfdocs/cfpma/pma.cfm?ID=P190018S029

・Zhu D. et al,「Patient-Reported Outcomes of Visual Disturbances with a Trifocal IOL」(2024, PMC) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11754775/

・Quick Guide「How does the PanOptix Pro reduce light scatter and improve contrast」 https://www.quickguide.org/post/panoptix-pro-reduce-light-scatter

・Dulles Eye Doctors「PanOptix Pro Trifocal IOL – Next Generation Vision at All Distances」 https://dceyedr.com/article/panoptix-pro-trifocal-iol-next-generation-vision-at-all-distances/

・中部眼科「眼内レンズとは」 https://www.chubuganka.jp/hakunaisho/intraocular_lens/index.html

・Quick Guide「Science Behind Diffractive Multifocals: Understanding Multifocal Optics」 https://www.quickguide.org/post/science-behind-diffractive-multifocal-iol

・白内障手術と多焦点レンズ(多焦点眼内レンズで気になるポイント~ハロー・グレア現象) https://www.hakunaisholab.or.jp/study/glare/

※本コラムは一般的な医学情報の提供を目的としており、特定の治療成績を保証するものではありません。手術適応・見え方には個人差があります。詳しくは石田眼科大崎クリニックの医師・スタッフまでご相談ください。

ご不明な点やご相談がございましたら、石田眼科大崎クリニックまでお気軽にお問い合わせください。スタッフ一同、患者様お一人おひとりに合ったご提案ができるよう努めてまいります。

石田眼科 大崎クリニック